静寂の中で響きあう魂の熱戦 デフリンピック、100年の歴史を経て初の日本開催へ

株式会社Asian Bridgeは、「全ての人が平等にチャレンジできる社会を実現する」というミッションのもと、「SportsBank」や「Bスポンサーズ」といったスポーツ応援サービスを展開しています。

私たちが掲げるこのミッションは、デフアスリートの活躍を通じて誰もが互いを尊重しあう「共生社会」を目指すデフリンピックの理念と深く共鳴します。そのため、様々な環境にあるアスリートの方々へ少しでも貢献できればとの思いから、この度、東京2025デフリンピックに協賛いたしました。

この貴重な機会を、デフリンピックをより多くの方に知っていただくきっかけとするため、大会のメインカラーである「さくら」をモチーフにした「さくらキャンペーン」の仕組みを開発。応援メッセージが集まるたびに、画面上に桜の花が咲いていくというシステムで、大会を盛り上げます。

皆さまの「デフリンピックを応援したい」という熱い思いを形にするこのキャンペーンを通じて、私たちは大会の魅力や歴史を数回に分けてご紹介していきます。

デフリンピックとは?「きこえない」が共通ルールとなる舞台

デフリンピックとは、デフ(Deaf:耳がきこえない)のアスリートが主役となる、きこえない・きこえにくい選手のための国際総合スポーツ競技大会です。国際ろう者スポーツ委員会(ICSD:International Committee of Sports for the Deaf)が主催し、夏季大会と冬季大会がそれぞれ4年ごとに開催されます。

競技は基本的に一般のルールに準拠していますが、デフアスリートが公平に、そして安全に競技できるよう、独自の工夫が凝らされています。

無音の中で競う「公平性」

デフリンピックの最も大きな特徴は、競技場に入った時点から補聴器などの聴覚補助具が使用禁止になることです。これは、全ての選手が「耳の聞きこえない状態」で、純粋な身体能力と技術を競い合うための、徹底した公平性を確保するルールです。

視覚情報と国際手話が鍵を握る

音による合図が使えない代わりに、視覚による情報保障や国際手話が活用されます。例えば、陸上競技ではスタートの合図に光を使った「フラッシュランプ」を使う、サッカーでは審判が笛と同時に旗を上げるなど、視覚的に分かる工夫がされています。

サッカー競技では審判は笛ではなく旗を使用。

選手たちは、目視による情報や振動を頼りに、一瞬の判断を要求される無音の世界で最高のパフォーマンスを目指します。世界中の選手が国際手話で交流する様子も、デフリンピックならではの感動的な光景です。

歴史的な節目100周年、そして日本初開催へ

デフリンピックの歴史は古く、第1回大会は1924年にフランス・パリで「国際サイレント大会」として開かれました。当時は9カ国から148人の選手が出場。その後、2001年にIOC(国際オリンピック委員会)によって正式に承認され、「デフリンピック」と呼ばれるようになりました。

そして、2025年11月に東京で開催される「第25回夏季デフリンピック」は、初開催からちょうど100周年を迎える記念すべき大会です。日本での開催はこれが初めてとなり、デフスポーツの認知拡大や、障害の有無に関わらず誰もがスポーツを楽しみ、互いを尊重する「共生社会」の実現につながることが、強く期待されています。

飛躍を遂げる日本の挑戦

日本は1965年の夏季大会で、卓球の中井リヲ子選手が初のメダル(銀)を獲得。冬季大会には1967年に初出場し、1999年にはアルペンスキーの伏見景子選手が銀・銅を獲得するなど、着実に歴史を刻んできました。

近年では、2017年夏季大会(トルコ)で過去最多の27個のメダル(金6・銀9・銅12)を獲得するなど、日本代表の躍進は目覚ましく、地元開催となる2025年東京大会での活躍に大きな期待が集まっています。

パラリンピックとデフリンピック、その違いとは

障害のあるアスリートが出場する国際大会としてパラリンピックを思い浮かべる方も多いでしょう。しかし、パラリンピックとデフリンピックでは、出場できる障害の種類が明確に異なります

パラリンピックは、視覚障害、身体障害、知的障害など、幅広い障害を持つアスリートを対象とした国際大会ですが、きこえない・きこえにくい選手は出場することができません

これに対し、デフリンピックは、きこえない・きこえにくいアスリートが活躍するための唯一の国際総合大会です。

デフリンピックは世界で2番目に古い国際総合競技大会

オリンピック(1896年)、デフリンピック(1924年)、パラリンピック(1960年)と歴史を比較すると、デフリンピックが世界で2番目に古い国際総合競技大会であり、その長い歴史は、きこえない・きこえにくいアスリートたちが長きにわたり、独自の環境でスポーツの機会を築き上げてきた証なのです。

デフアスリートになるための出場条件

デフリンピックに出場する選手は、下記の2つの条件を満たしている必要があります。

1. 聴力要件(55dB以上)

良聴耳(聞こえの良い方の耳)で、55デシベル(dB)以上の聴力損失があることが条件です。これは、通常の会話が聞き取れないレベルに相当します。大会では事前に聴力検査が行われます。

身近な音と音の大きさ(dB)

20dB … 木の葉が風で揺れる音、寝室の静けさ

30dB … ささやき声、図書館の静けさ

40dB … 静かな住宅街、冷蔵庫の音50dB … 小声での会話、エアコンの音

60dB … 普通の会話、テレビの音量(家庭で快適に聞けるレベル)

70dB … 掃除機、ドライヤー、走行中の自動車の車内

80dB … 地下鉄の車内、繁華街の騒音

90dB … バイクのエンジン音、犬の鳴き声(至近距離)

100dB … 電車が通過する時のガード下、カラオケの大音量

110dB … ライブ会場、チェーンソーの音

120dB … 飛行機のエンジン近く

2. 国籍・登録要件

各国・地域のろう者スポーツ協会(日本では全日本ろうあ連盟)に登録し、国内選考会で出場条件を満たしている必要があります。

そして、競技や練習中はもちろん、競技場内では補聴器の使用は禁止です。この厳格なルールが、デフリンピックの公平性を保証しています。

2025年東京大会がもたらす未来

デフリンピックは、きこえない・きこえにくいアスリートたちが、聴覚補助具を使わない公平な環境で、技術と魂をぶつけ合う独自の魅力を持つ国際大会です。1924年のパリ大会から100年という時を経て、2025年に初めて東京で開催されます。

この記念すべき大会は、デフアスリートたちの卓越したパフォーマンスを通して、私たち一人ひとりが「聞こえ」や「コミュニケーション」について改めて考え、多様性を認め合う「共生社会」の実現に向けた大きな一歩となるでしょう。静寂の中で響きあう熱き戦いに、ぜひご注目ください。

 

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