記念すべき100周年大会で初の日本開催。デフスポーツを間近で観戦できる「東京2025デフリンピック」の楽しみ方
1924年の第1回パリ大会から100周年の節目となる年に、初めての日本開催が決まったデフリンピック。
デフリンピックは、オリンピック・パラリンピックと同様、夏季と冬季それぞれ4年ごとに開催される、
デフアスリートを対象とした国際総合スポーツ競技大会です。
日本初開催とあって、デフリンピックはもとより、デフスポーツ自体初めて見る、触れるというスポーツ
ファンも多いのではないでしょうか。
100周年、そして初めての日本開催という歴史に残る大会の準備運営本部を担う東京都スポーツ文化事業団のみなさんに、本大会のトータルサポートメンバーである株式会社Asian Bridgeが、大会の開催意義や競技の魅力、その楽しみ方についてデフリンピック準備運営本部の3名にAsian BridgeBankソリューション事業部マネージャの三宅が聞きました。
インタビュー協力
東京都スポーツ文化事業団 デフリンピック準備運営本部総務部
シニアマネージャー 板倉さん(右)
東京都スポーツ文化事業団 デフリンピック準備運営本部総務部広報
グループマネージャー 石井さん(中央)
東京都スポーツ文化事業団 デフリンピック準備運営本部総務部広報グループ
大田原さん(左)
目次
100年の歴史を持つデフリンピック
Asian Bridge(以下、AB):今回日本で初めての開催となるデフリンピックについて、まずはどういった大会なのか教えてください。
板倉さん:デフリンピックというのは、英語で「耳が聞こえない」を意味する「デフ(Deaf)」とオリンピックを掛け合わせた言葉で、国際ろう者スポーツ委員会(ICSD)が主催する「きこえない・きこえにくいアスリートのための国際競技大会」となります。
国際オリンピック委員会(IOC)が認める4つの大会というものがあり、オリンピック、パラリンピック、スペシャルオリンピックス、そしてデフリンピックがそれにあたります。
もともとデフリンピックは、ろう者の地位向上や手話言語の普及啓発といった目的で、1924年パリの第1回大会から始まっていて、今回の東京2025デフリンピックは、100周年であり日本初開催ということで、記念すべき大会として捉えられています。
AB:オリンピックやパラリンピック同様、夏季と冬季それぞれ4年ごとに開催されていますが、各大会との違いはどういったところにあるのでしょうか?
板倉さん:デフリンピックに出場するには基準があり、補聴器など何もつけていない状態で聞こえる一番小さな音が55㏈以上であることと定められています。
一方パラリンピックでは耳の聞こえない方向けの種目はなく、そこで区別されています。
実は、パラリンピックよりもデフリンピックのほうが歴史は古く、パラリンピックが始まってから、デフリンピックと統合するような話も当然あったそうですが、手話でのコミュニケーションが必要である点や、当事者の想いもあり、統合されることはなかったようです。

視覚と事前の“すり合わせ”がものをいう。デフリンピックの見所
AB:デフスポーツの競技の特徴やデフリンピックならではの見所はどんなところですか?
板倉さん:オリンピックにはない競技では、オリエンテーリングとボウリングがあります。オリエンテーリングは、スタート時に渡される地図を頼りにチェックポイントを通過してゴールに着く速さを競う競技で、今回日比谷公園で短い距離と伊豆大島で長い距離の競技が行われます。都会と自然の風景のコントラストも楽しめるのではないでしょうか。
▶オリエンテーリング競技紹介
その他、共通している競技のルール自体はオリンピックと変わりありません。違いは大きく2つあって、1つは、競技中は補聴器などを外さなければならず選手は本当に聞こえない状況で競技を行うということ。そのため運営上でも大きく異なる点として、選手に見える形で「情報保障」を行うのがもう1つの特徴です。
例えばサッカーだと、笛の音は聞こえないため審判が旗を振って合図したり、陸上や水泳競技ではスタートの合図にスタートランプという光を使って知らせたり、バレーボールではネットを揺らすなど、いろいろな工夫をして視覚的に知らせています。
AB:チームスポーツでの選手同士のコミュニケーションはどうしているのでしょうか?
板倉さん:チームや選手によってそれぞれに合った方法でコミュニケーションをとっているようです。ハンドサインを使ったり、事前に入念に打ち合わせていたり。選手の中にも、もともと手話を使う方、使わない方もいるので、どのようにコミュニケーションをとるのかは選手ごと、チームごとに様々です。
そういった駆け引きもデフスポーツならではの見所として楽しんでいただけるのではないでしょうか。
100周年の歴史に残る大会を初開催の東京で
AB:今回、100周年という記念すべき年に、日本初、東京初開催となりますが、なぜこのタイミングで東京開催に至ったのでしょうか?
板倉さん:今回の大会を招致したのは全日本ろうあ連盟で、もともと日本で開催したいという想いはずっと持っていました。そこに今回、東京都が協定を結ぶ形で東京開催が実現された形になります。大会運営にあたっては、全日本ろうあ連盟、東京都、そして準備運営本部として我々東京都スポーツ文化事業団の3者で連携して準備を進めています。
東京都では東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催まで動きを取ることはなかなか難しかったけれど、開催後はむしろそのレガシーを活かしてデフリンピックの大会サポートをしていこう、という流れになったのです。
AB:初めての日本開催ということで、多くの方にデフスポーツを間近で見ていただける機会になると思います。
板倉さん:本大会は観戦無料となっていて、事前申し込みも不要です。基本的には競技時間に直接会場に来ていただければ観戦できるので、ぜひお気軽にご来場いただきたいですね。大会ホームページで会場の混雑状況などもご確認いただけるようになっています。観戦時のマナーや禁止事項なども掲載しているので、事前にご覧になってきていただくと安心して観戦できると思います。
きこえる・きこえないにかかわらず、「サインエール」で届ける応援のかたち
AB:今回デフスポーツを初めて見るという方もたくさんいらっしゃると思いますが、楽しみ方を教えていただけますか?
板倉さん:デフスポーツでは、選手たちには声援や拍手といった音での応援は届きづらいという現実がありました。そこで本大会では100周年という節目もあり、東京都が「サインエール」という日本の手話言語をベースに創られた応援方法を開発して広めていこうとしていますので、ぜひそういった応援の仕方を取り入れながらデフスポーツを楽しんでいただきたいです。
AB:きこえないアスリートに応援を届けるために、
石井さん:3パターンあるのですが、一番わかりやすいのが「行け!」というサインエール。両手を開き、顔の横でひらひらさせてから前に押し出せば、『行け!』『がんばれ!』という気持ちを送ることができる。他に、「大丈夫 勝つ!」「日本 メダルを つかみ取れ!」というサインエールがあり、全3パターンを紹介している動画もあるのでぜひご覧ください。
▶デフアスリートに届ける新しい応援スタイル『サインエール』(TOKYO FORWARD 2025)

板倉さん:会場によっては、応援団のように先導する人がいて、みんなでサインエールを使って選手を応援しよう、という企画も予定されています。
AB:サインエールと手話は違うものなのでしょうか?
板倉さん:ろう者を中心にしたメンバーで、デフアスリートたちと共に新たに開発したものです。手話をベースに、きこえる・きこえないに関わらず、応援の気持ちが伝わるような動きを組み合わせて表現されています。
サインエールは応援する側、応援される側で様々な意見交換を重ねてつくられたので、今回初めてデフスポーツを観戦される方も、これを覚えて応援の際に使っていただくと、一体感も増してより一層盛り上がるのではないかと思っています。
▶サインエールの制作の様子
AB:サインエールをきっかけに、手話を覚えてみたいなという方も出てきそうですね。大会現地でもしアスリートやスタッフの方とお会いした時に、これを覚えておくとコミュニケーションが取れるかも、という手話があれば教えてください。
大田原さん:手話は国によって異なり、国際的な会議や集まりの場で使われる国際手話というものも存在し、デフリンピックではこの国際手話が使われています。
ただ、そういった中でも「拍手」の手話は世界共通なので、ぜひ使ってみるのはいかがでしょうか。
せっかくの機会なので、世界の手話の違いに触れてみるのも面白いと思います。同じ日本の中でも地域によって方言のように違いがあるんですよ。そういった手話も本大会をきっかけに知っていただくと新たな発見があると思います。

AB:大会を通じて文化を知るというのはまさに国際スポーツ競技大会の醍醐味だと思います。最後に、東京2025デフリンピックにかける想いやスポーツファンへのメッセージをお願いします。
石井さん:現地での観戦はもちろん、現地に来られない方も、メディアを通じて観戦もできますし、全競技YouTube配信も行いますので、ぜひそれぞれの観戦方法で楽しんでいただきたいですね!
▶TOKYO2025 DEAFLYMPICS YouTubeチャンネル

板倉さん:普段、手話に触れる機会がない方も多いと思います。デフリンピックが東京で開かれるこの機会に、実際に会場に来たり、配信動画を見たりして、手話で会話している光景や、ろうのアスリートが競技に取り組む姿に触れてもらえたらうれしいです。きっと、そこからいろいろなことを感じ取ってもらえるんじゃないかと思っています。
単なるスポーツ競技大会ではなく、互いの違いを認め合えるような共生社会の実現を、本大会を通じて発信していきたいです。
