富山県全体をハンドボールで盛り上げたい。外からの視点と豊富な知識・経験で挑む新監督の挑戦
スポーツの世界は、ときに地域や伝統の壁が厚く、外から入りにくい雰囲気を持つこともあります。
そんな中、富山県氷見市を拠点とするリーグH所属のハンドボールチーム「富山ドリームス」が2025年6月に迎えたのは、高岡向陵高校で長年指揮を執ってきた大房和雄さん。
代表理事の徳前紀和さんは氷見高校の元監督で、両校は言わずと知れたライバル関係でした。
かつての宿敵同士が手を組み、新生・富山ドリームスとして新たな一歩を踏み出した背景には、“共創”というキーワードがあります。
今回はその想いを大房新監督に伺いました。
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大房 和雄(おおふさ・かずお)さん
富山ドリームス監督。富山市出身。
高岡向陵高校、日本体育大学でプレーしたのち、母校である高岡向陵高校男子ハンドボール部で約20年間監督を務める。日本代表アンダーカテゴリースタッフとして2022年アジア大会優勝にも貢献。
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目次
“ライバル同士”が手を取り合い新たなスタートを切った富山ドリームス

かつての氷見高校ハンドボール部の監督と高岡向陵高校ハンドボール部の監督が握手を交わした、富山ドリームスの“新体制お披露目”に驚いたハンドボールファンは少なくないはずです。
隣接する氷見市と高岡市の両校は、互いにハンドボールの強豪チームで長年のライバル関係にありました。
宿敵たるもの、手の内は明かさないのが慣例でしたが、両校の場合は少し違っていたようでした。
「氷見高校はもちろん、ライバルであり越えなければいけない存在でした。
徳前さんの前の氷見高校男子ハンドボール部監督である金原理博さんの時代にさかのぼりますが、インターハイ予選で氷見高校を崩せずに終わった年がありました。インターハイ予選後、金原さんから、国体では一緒にやるぞ、とシステムや戦略について全部教えてもらったんです。
『自分たちの勝負はインターハイ予選までだ。国体ではひとつになって、すべて共有することで、さらにレベルアップするだろう』と。
この人は大きい人だなと、自分自身のマインドも変わったターニングポイントでしたね。」
徳前さんも同じマインドを引き継ぎ、氷見高校と高岡向陵高校は一番のライバルでありながらも、互いに切磋琢磨していく関係でした。
大房さんは、「トップチームをつくり、富山県にハンドボールの文化を根付かせたい」という徳前さんの熱い想いを、富山ドリームス発足前から応援していました。
新監督として指揮を執るオファーに少しの迷いはあったものの、自分の人生にとってまた成長できるいい経験になると、快諾してくれました。
可能性を秘めた若きチーム。デュアルキャリアだからこそこだわる質と密度

大房さんは、富山ドリームスの“若さ”に可能性を感じているようです。
若い選手が多いとはいえ、プロはプロ。今まで高岡向陵高校で高校生たちに教えてきた指導方法では、選手たちに自分のイメージを伝えきれないことが印象的でした。
自身が学ぶ、スポーツ心理学の観点から分析し、新たな環境で試行錯誤しながら少しずつイメージをフィットさせ、チームビルディングに取組んでいるようです。
「2023年から金沢大学大学院でスポーツ心理学を専攻し、運動学習の心理学を専門として学んでいます。調べていく中で、高校生は積み上げ型、プロ選手には逆算型アプローチのほうが効果的だという研究がいくつもありました。
富山ドリームスでは、目標から逆算して全体的に技能を統合していき、その中で課題があれば積み上げ型に立ち戻り補っていく、という方法を試してみて、これがだんだんフィットしてきているように感じます。」
具体的な目標に向けて、具体的な課題を言語化して整理するやり方の実践は自身のスキルアップにもつながっているそうです。
「イメージをすり合わせていくために、映像クリップを自分で作って練習やミーティングで活用しています。
選手たちは仕事をしながら選手でもある“デュアルキャリア”であることが富山ドリームスの特徴でもあり、限られた時間の中でいかに選手たちの理解度を高め、目標設定に対しての1日1日の練習の質・密度を高められるかを意識して工夫しています。
僕のやりたいハンドボールのイメージと選手たちのやりたいハンドボールのイメージを寄せていっている段階ですね。僕自身にとっても勝負の日々だと思っています。」
市町村の垣根を超え、富山県全体を“ハンドボールの街”へ
県外に出た大学時代以外はずっと富山で過ごしてきた大房さん。とはいえ、住まいは富山市、職場は高岡市、という生活が長年続き、氷見市との関わりは富山ドリームスの監督就任後からぐんと増えました。
「氷見の人たちはあたたかく、選手もチームもかわいがってもらっています。“ハンドボールの街”と言われるだけあって、ハンドボーラーがどこにでもいますね。
『“ハンドボールの街”=氷見市』の印象が強くて、外部の僕が監督をやるとなったときは周りがびっくりしていましたけど、ハンドボールを氷見市だけでなく富山県全体で盛り上げよう、と徳前代表には伝えています。そこに僕が監督をやる意味があると思っています。」
現在は、氷見市内でのトレーニングに加え、富山市の総合体育センターでも週2回トレーニングを行っており、富山県はコンパクトで移動しやすく、トレーニング環境にも恵まれているそうです。
「トレーニングのために休館日も練習場を開けてくれたり、富山県のスポーツ協会の協力も大きいです。
氷見市外にも活動の場を広げ、県内各地のファンに試合を見に来ていただきたいです。」
“共創”をスローガンに、チーム一丸となってハンドボールの楽しさを伝えていく
ハンドボールは「球技であり格闘技でもある」と語る大房さん。その魅力を尋ねました。
「激しいコンタクトプレーがあり、展開が早い点が特徴です。格闘技的要素、スピード感など様々な要素が含まれていて、初めて見る方にもすごく面白いと言ってもらえることが多いです。
身長差による影響が少なく、小柄な選手も活躍できる点も夢があっていいですよね。」
そんなハンドボールの魅力を伝えられるよう、チーム一丸となって取り組んでいる富山ドリームス。新たな道のりは始まったばかり。
「若いチーム、若い選手でまだまだ可能性を秘めています。富山ドリームスが掲げる“共創”の理念のもと、ファンやスポンサーのみなさんも含め、みんなでチームを作り上げていけたらと思っています。
早く開花して結果につなげるよう、現場では選手、スタッフ一丸となって努力していますので、引き続き応援よろしくお願いします!」